【大江健三郎と戦後文学】
大江健三郎の作家生涯の中で、二十代の後半で書いた『個人的な体験』、三十代の終わりに書いた『万延元年のフットボール』、そして四十代の半ばで書いた『同時代ゲーム』は、共に大江文学の転換点だったのである。『万延元年のフットボール』は、故郷の森にあった出来事を素材にした、いわば村=国家=小宇宙という共同社会が初めて登場してきた小説であると思われる。「小宇宙」とは、ミクロ・コスモス、人間のことである。それは、国家よりも人間が最も大切であるという思想である。この思想は、勿論、恩師渡辺一夫のユマニスム精神に基づいたものである。
大江文学の特徴を考える場合、その独特な文体に触れる必要がある。大江の文体特徴は、彼の文学表現や同時代に対する、或いは未来に対する想像力とも深く関わっているのである。作家埴谷雄高は、「核時代の文学の力 大江健三郎について」の中で、大江健三郎の内部にある混沌たる力を、不思議な閃光を放つ「内燃機関」である、といかにもSF的な表現で形容している。つまり、それは≪人類がはじめて自己の内部で何かが燃焼していることをふと自覚した最初の原始の装置でもあり、また、この世にありとある「すべて」を推進力に転化すべき可燃性材質として「無限動力」ふうに引き受けてしまう一種未来的でもあるいわば「超」新型の内燃機関、に向きあっている》、「大江健三郎を語ることは、取りも直さず戦後三分の一世紀の日本文学について語ることだろう」とも述べている。大江健三郎を語ることの重要性が端的に言い表されていると思う。
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【大江健三郎の本】
大江健三郎同時代論集(全10巻、岩波書店)
核時代の想像力(新潮選書)
言い難き嘆きもて(講談社)
「読む人間 読書講義」(集英社)
「話して考える」と「書いて考える」(集英社文庫)
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