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社会福祉学部専任教員の研究紹介 その10 立花茂樹 先生

~専門分野 特別支援教育 ~学びを支援する教材・教具の工夫~  

 社会福祉学部専任教員の研究紹介シリーズとして、第10弾は学部長インタビューでお届けします。
                             報告者 社会福祉学部長 石田 和男

石田: 立花先生は青森県内の国公立学校等に勤務の後、本学社会福祉学部非常勤講師を経て専任教員となり、学校教員として障害のある生徒の教育に携わることを希望する学生の指導を担当されていますが、 特別支援教育という分野で教師を勤める魅力をお聞かせ頂けますか。

立花: 我が国の盲ろう教育の先駆けとなる研究と実践に取組まれた梅津八三先生の言葉に、私の教育活動の指針としてきた「相互障害状況」、「相互輔生」があります。梅津先生は、 障害児といわれる子どもたちを前にして、適切な行動へと導く言葉も方略も持てずに、ただただ戸惑い、立ち尽くすだけの教師の姿は障害者といえるものであり、そのような子どもと教師がともに、 つまずき、とまどい、とどこおっている関係を相互障害状況といっています。また、子どもたちが障害状況から立ち直るための対処の仕方を、係わり手である教師が発見、実行し、 子どもたちの変容をもたらすことができるならば、教師自身も自らの障害状況から立ち直ることになる、そのような互いの生命活動の調整を革める(あらためる)輔け合い(たすけあい)を 「相互輔生」と呼んで、そうした状況を目指すことが教育であり、そこにこそ教育の喜びがあると述べています。
 これまでの教職生活での障害のある子どもたちとの係わりを振り返って、改めて「相互障害状況」「相互輔生」を基盤とした教育活動に携ってこられたことに喜びを感じています。 何をどうしたらいいのだろうかと、なかなか答えを見つけ出すことの難しい教育分野ですが、今日を懸命に生きる子どもたちの姿、昨日までできなかったことが今日できたよと笑顔いっぱいで駆け寄ってくる姿、 そんな子どもたちに寄り添えることに大きな魅力があると感じています。

石田:一人ひとりの障害特性に合わせて教材や教具を開発することの難しさとやりがいを感じるものと思います。研究テーマにされている「学びを支援する教材教具の工夫」について、どのような形で研究を進めておられますか。

立花: 障害種によって異なりますが、特別支援教育では、教科書がなく一人一人の障害の種類や程度に応じた教材・教具を開発したり、市販の遊具や教材を活用したり一部を改良したりして授業を進めることが多いのです。 特に、重症心身障害や知的発達の遅れを伴う自閉症の子どもたちにとって、教材・教具は、教師の話ことばによる指示等と同様に授業を受ける子どもたちに直接的な影響をもたらし、教育の成果に大きく作用します。とはいえ、 市販の教材は高価であり、また、思ったほど子どもたちの実態に合致する効果的なものは少ないのです。そこで、教材・教具の自作が必要になるのですが、学校現場は、時間、費用、人材、情報ソースなど、厳しい状況にあります。
 そのような状況を踏まえて、①「発達障害」のある子どもたちの学習指導における教材・教具の活用の実態と課題について明らかにする。その上で、②教材・教具の活用に関する教師への支援について検討する。 ③校内・外で開発された教材・教具を活用するための情報を共有するための仕組みづくりを検討する。の3点についてまとめたいと考えています。
 更に、これまでに私が作った教材・教具、インターネットやフリーソフトを活用した無料で手軽な教材・教具を紹介できればとも考えています。

石田: 近いうちに弘前でアールブリット展を開いて障害者の方々の制作された芸術作品について身近に感じてもらえるような活動をしたいと私も考えているところです。 教育現場で障害を持つ子どもさんたちと過ごしたなかで、彼らの芸術作品や創作物から感性や刺激をもらった経験等エピソードはありますか。

用紙の下から上へ向かって、足先から脚、胸、腕、頭部へと人物を描く子がいました。とても器用に、ためらいなく描く様子にびっくりしたのを覚えています。また、 以前に勤務した養護学校で、子どもたちの創作した水彩画、紙版画、やきもの、方言詩などをまとめた『作品集 豊かな心情の世界』(1985 弘大教育学部附属養護学校) に納められた作品は、いずれも自由奔放で生命感に溢れており、創作活動の楽しさが伝わってくるものばかりでした。
 それと、赤座憲久先生のお書きになった『目の見えぬ子ら』(1961 岩波新書)に収録されている次の二つの詩がとても印象に残っています。
  どしゃぶり                星
雨がふってきた           星はキラキラひかっているとみんながいう
土くさい              ぼくは星を知らない
土くさい              でも、なんだか
どしゃぶりだ            猫のなき声みたいな気がする
 どちらも視覚障害(全盲)の小4男子の作品で、60年以上も前に書かれた作品です。「どしゃぶり」の詩は、乾ききった地面に、激しくたたきつけるように降る雨、 その情景を「土くさい」と、においで表現しています。また、「星」の詩は、見えなければ表現できない星空を、猫を抱いたときの温かくふわふわとした毛の感触となき声に置き換えて表現しています。 見えない世界にありながら、目の見える私たち以上の鋭い感覚で物をとらえていることに驚くばかりです。

石田:2016年に「障害者差別解消法」が施行され、本学部でも先生の尽力により「障害学生支援ガイドブック」を発行することができました。このハンドブック作成に込めた思いをお聞かせ願います。

立花: 「共生社会の実現」、「インクルーシブ教育システムの構築」など、障害のある方々を取り巻く環境は、国連での「障害者権利条約」の採択以降、制度面では大きく変わってきました。 しかし、残念ながら、現実場面ではまだまだ十分な理解は得られず、障害のある方々が苦痛を味わう場面に遭遇することも多いようです。近年、障害を有する学生の高等教育機関への進学者が増加しており、 本学でも同様の状況にあります。そこで、障害のある学生が入学したときに、他の学生と同じように充実した大学生活を送ってもらうために、物理的な環境を整えることはもちろんですが、 一緒に学ぶ仲間となる学生、職員、教員が障害や障害者について理解を寄せ、互いに支え合える関係を築くことを期待して作成にかかわらせていただきました。ガイドブックを読んでいただいて、 宮澤章二さんの詩集『行為の意味 青春前期のきみたちに』の「 <こころ> はだれにも見えないけれど <こころづかい> は見える <思い> は見えないけれど <思いやり> はだれにでも見える」を 実践できる大学でありたいと思います。

石田: 青森県教育委員会や弘前市等からの各種委員会の委員就任依頼や研修会講師依頼があるものと思いますが、地域貢献はどんなことをされていますか。

立花: 県内の特別支援教育に関する研研究会の研修や小学校、中学校の校内研修、また、県聴覚障害者情報センターが実施している要約筆記者養成講座の「福祉」に関する講義の講師等を務めさせていただいています。 また、視覚障害者の方々への点訳・音訳等のボランティアをしている「弘前愛盲協会」のお手伝いをしています。

石田:最近発表された論文や学会報告などがあれば教えて頂けますか。

立花: 次のようなものがあります。 「助け合って生きる社会をめざして-特別支援教育から見えてくること-」(弘前学院大学地域総合文化研究所『地域学』11巻pp27-63,2015)
「講演資料 心豊かに学び合う授業づくりをめざして」 『青森県へき地・複式教育研究会 平成26年度 研究紀要』(2015)
「専門職の能力と組織―福祉・看護・教育の三分野から―」(同大学地域総合文化研究所『地域学』12巻2016)
「弘前市インクルーシブ教育システム構築モデル事業について 第三者評価・意見」(弘前市教育委員会 2015,2016)

石田:この度は詳しくお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。引き続き、教育研究活動、地域貢献活動にお励みになられますよう。

立花: ありがとうございます。

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