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社会福祉学部専任教員の研究紹介 その11 佐藤眞一 先生

専門分野 特別支援教育
~障害児のための発達援助に関する研究、重症心身障害児教育における教育内容・方法に関する研究~

 社会福祉学部専任教員の研究紹介シリーズとして、第11弾は学部長インタビューでお届けします。
                             報告者 社会福祉学部長 石田 和男

石田: 佐藤先生といえば青森県内の特別支援学校や青森県教育庁等での勤務の後、本学部専任教員として勤務され、長年の教育実践現場、学校運営管理にも携わられた実務家教員としての業績を持っておられます。 本学部では社会福祉士と精神保健福祉士の養成に加えて特別支援学校教諭免許が取得できるようにカリキュラムを編成して養成しているわけですが、まず、特別支援教育という分野で教師になる魅力をお聞かせ頂けますか。

佐藤: 教員の魅力は様々あると思います。その中で、強く魅力を感じることを一つあげるとしたら、「一人一人の持って生まれた諸能力を適切に引き出すことができた」との達成感を得られることではないでしょうか。 このことについては、いわゆる普通教育を担当する教員と障害のある人を担当する特別支援教育の教員との間には、大きな魅力の差はないと考えます。
 あえて、特別支援教育における教員の魅力をあげるとしたら、次のようなことが言えるのではないでしょうか。

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などをあげてみましたが、いかがでしょうか?
 もし、特別支援学校の教員として働くことになれば、様々な経験をとおして、先にお話しした達成感とともに、いろいろな「特別支援教育教員としての魅力」を強く感じ取ることができると思います。

石田:同じ質問を本学部の立花先生にもしたのですが、やはり共通する部分もあれば、佐藤先生なりのお考えもあり、なるほどと納得させられた次第です。ところで、佐藤先生は研究テーマを2つもっておられますので、 「障害児のための発達援助に関する研究」についてどのような形で研究を進めておられますか。

佐藤: 「障害児のための発達援助に関する研究」については、二つの内容を進めています。
 一つには、「早期からの教育相談の在り方」についてです。ご承知の通り、障害への望ましい対応として、早期発見・早期治療(対応)という考えがあります。 しかし、乳幼児期の対象児の発達状況の把握には高い専門性が要求されます。また、保護者は子どもの発達状況に不安を抱え精神的にも不安定な場合が多く、保護者への支援も困難を伴うなど、早期からの教育相談には多くの課題が存在します。
 今後は、対象児の的確な実態把握が可能になるように相談担当者の専門性向上を図ること。加えて、県・市町村教育委員会の相談機関及び担当者、特別支援学校や特別支援学級の相談担当者、保健や医療部門の相談担当者との連携強化を一層図り、 早期からの教育相談が個々のケースに応じて適切に行われるために、相談環境の充実が重要となります。相談環境の充実をねらうためには、早期からの教育相談の実態調査を行い、その具体的対策の解明を進めていきたいと考えています。
 二つには、「インクルーシブ教育システム構築の在り方」に関する研究です。障害者権利条約や障害者差別解消法などの主旨を受け、障害のある者とない者が共に学ぶ仕組みづくりについて、課題とその方策について明らかにしようとするものです。 特に、小・中学校に焦点を当て、合理的配慮を取り入れた授業の推進とその基礎となる校内委員会の活性化に注目しました。
 小・中学校における合理的配慮をテーマにした授業改善では、教育機器の活用や特別支援学校のセンター的機能の活用が有効である等の結果が示されています。市教育委員会から委嘱を受け、市内の小・中学校を巡回する学びの協力員の協力を得ながら、 インクルーシブ教育システム構築の課題と対策について、研究を進めていきたいと考えています。

石田: 障害児一人ひとりの障害特性に合わせて教材開発することの難しさとやりがいは立花先生からの お話の際にも聞かせて頂きましたが、やはり、発達援助においてもまさに一人ひとりに寄り添い、適切な支援を考えることが大事なんですね。つぎに、 「重症心身障害児教育における教育内容・方法に関する研究」についてどのような形で研究を進めておられるかお聞かせ願います。

佐藤: 特別支援学校には、障害が重くかついくつかの障害が重複している子どもがたくさん在籍しています。その中で、重度の肢体不自由及び重度の知的障害を併せ有する「重症心身障害」と呼ばれる子どもがいます。 多くは、いわゆる寝たきりの発達段階にとどまり、重症心身障害児病棟に入院していて医療的ケアを必要とする場合も見られます。また、皮肉にも医学の進歩とともに、重症心身障害の子どもが少しずつ増えているとも言われています。
 このような重症心身障害の子どもの発達支援は、指導内容と指導方法の適正化についての困難性から、特別支援教育、特に病弱教育における課題の一つとしてあげられているところでもあります。このため、「実態の把握」、 「実態の理解と指導仮設の設定」、「指導仮説に沿った指導内容の設定と重点化」、「最近接領域の観点から見た指導内容の妥当性」、「具体的な指導方法の検討」、「指導の実践」、「評価と指導の改善」などに焦点を当て、 これまでも重症心身障害の子どもの指導内容・方法の適正化の実践研究に取り組んできました。
 なお、「重症心身障害児教育における教育内容・方法に関する研究」についての具体的な研究の進め方としては、三つのポイントを大事にしています。一つには、「健常乳幼児期の発達に関する新たな知見を分析し、 領域と月齢毎に整理作業を進めることで対象児童生徒の実態把握と理解に役立てる。」、二つには、「領域と月齢を要素にした対象児童生徒の発達パターンを作成・活用し、発達課題を指導仮設として明らかにするとともに、 発達パターンと指導仮設の類型化を図りながら指導の成果との関連を明らかにする。」、三つには、「指導内容の適正化に必要な教材教具の作成や指導方法の工夫を明らかにし、指導内容ごとの教材教具の類型化と整備に努める。」です。
 また、本研究では、重症心身障害児童生徒が在籍する県内特別支援学校の協力を得ながら、指導の実践についてケース研究をまとめ、その結果を基本にして進めています。

石田:社会福祉学部で社会福祉に関する基礎的な知識を得るとともに、基礎免許取得を踏まえて特別支援学校教諭免許状を取得する学生は、やはり特別支援学校教諭として向いているとか、メリットが多い等、激励の言葉があればお願いしたいのですが。

佐藤: 特別支援教育教諭免許状を目指す学生は、いわゆる普通学校教員の基礎免許状関連の学習に加え、たくさんの内容について学ぶ必要があります。それは、「障害種の理解と適切な対応」、「障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するための活動」、 「自立と社会参加を意識した卒業後の進路」など様々な内容です。
 一方、社会福祉学で学ぶ分野は、広範囲で多様ですが、障害についても重要であります。この障害分野では、他の分野と同様、一人一人の諸課題について一生にわたっての対応が必要となります。また、幼児期から障害のある人は、幼稚園、小・中学校、高等学校段階の学校教育において、 10数年間にわたって特別支援教育と深い関わりをもちます。つまり、障害分野においては、年齢段階による課題の特徴の違いはあっても、基本的に社会福祉と特別支援教育に共通する点が多いことに気づかされます。むしろ、障害分野を担当する者は、 福祉と教育の両面からの視点を持つことが重要だと考えます。
 この意味から、本学部の特別支援学校教諭を目指す学生は、教育学部にはない社会福祉学部としての教育環境のメリットを生かし、障害のある人の一人一人の課題及びその対応のための指導について、短期的あるいは長期的に考える力を高めてほしいいと望んでいます。 確かに履修上の負担とそのための苦労は大きいでしょうが、くじけずに勉学に頑張ることを期待します。私も大いに応援したいと思います。

石田: 佐藤先生には、青森県教育委員会や弘前市等からの各種委員会の委員就任依頼や研修会講師依頼があるものと思いますが、地域貢献はどんなことをされていますか。

佐藤: 黒石市いじめ問題対策審議会委員、非営利活動法人team. Step by step 第三者委員、弘前大学教育学部非常勤講師(病弱者の指導法)、青森県教育委員会免許法認定講習講師(病弱教育総論)などに関わっています。何れも特別支援教育や教育行政に携わった立場から、 障害のある児童生徒・者の適切な理解や指導・援助、或いは特別支援教育の教員養成について、様々な地域貢献に微力ながら努めさせていただいています。

石田:最近発表された論文や学会報告などがあれば教えて頂けますか。

佐藤: 2017年(共著)「知的障害・肢体不自由・病弱・視覚障害・聴覚障害等を併せ有する児童生徒の教育課程作成のための「基本的な考え方」に関する研究 -自立活動を主とした教育課程の検討を通して-」『弘前大学教育学部紀要,117:p.81-90,2017』、2018年(共著) 「知的障害者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科の目標設定と評価 -生活科の目標設定と評価シートの作成の試み-」『弘前大学教育学部紀要クロスロード 22:p.113-120,2018』があります。
 また本年度は、昨年度の研究の一環として、これまで領域であった「道徳」が新学習指導要領において「特別の教科 道徳」として位置づけられたことを踏まえ、知的障害教育及び重複障害教育における「特別の教科 道徳」の指導項目の検討を課題としました。 障害のある児童生徒にとっても、この「特別の教科 道徳」に関する指導の実践は重要なことから、弘前大学教育学部特別支援教育担当教官や県内特別支援学校の教員とともに、現場のニーズを踏まえながら論文をまとめているところです。
 今後も、「特別支援学校に在学する児童生徒の学習内容・方法はいかにあるべきか」をテーマに、学校現場の教育実践において、教科や自立活動等の内容配列及びその評価を検討する際に、現場の教員が少しでも参考にできる研究に取り組みたいと考えています。

石田:この度は詳しくお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。引き続き、教育研究活動、地域貢献活動にお励みになられますよう。今後のご活躍に期待しております。

佐藤: ありがとうございます。

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