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社会福祉学部専任教員の研究紹介 その12 藤岡真之 先生

~豊かさと社会に関する問題に関する研究~

 社会福祉学部専任教員の研究紹介シリーズとして、第12弾は学部長インタビューでお届けします。
                             報告者 社会福祉学部長 石田 和男

石田: 藤岡先生は社会学がご専門で、博士号も取得されておられます。社会学といっても幅が広いですよね。先生は「豊かさと社会」 という視座から研究を進められているとのことですが、どのような研究を進められているか教えて頂けますか。

藤岡: 石田学部長がおっしゃるように、社会学はとても幅の広い学問です。なにしろ、社会や人に関係することであればほぼ何でも研究対象になりますから。家族、地域社会、社会階層・社会階級などは比較的オーソドックスな研究対象だと思いますが、 ほかにも医療、教育、宗教、政治、経済、環境、ジェンダー、文化、メディア、グローバル化、科学・・・。ほとんど何でもありです。このフットワークの軽さは、社会学の持つ魅力だと思います。
 私は、上に挙げたようなテーマのそれぞれについてももちろん関心を持っていますが、特に強い関心を持ち、研究を行っているのは、広くいえば経済社会学や社会意識論といった分野、もう少し狭くいうと、 社会にとっての豊かさや消費社会といった問題です。
 そもそも私がこのようなテーマに関心を持つようになったのは、大学生の時に訪れたタイやインドといったアジア諸国で軽いショックを受けたことが始まりです。その当時、日本社会はバブル経済が弾けた直後でしたが、 今よりも社会に余裕があったと思います。そんな日本から、バックパックを背負ってタイやインドを訪れてみると、そこにはまるで違った世界が広がっていました。湿度が高く、むせ返るような熱気のもと、 交通渋滞の中をたくさんのオートバイがうなりをあげて走っていたり、道路を牛が闊歩していたり。また、困難な生活を強いられている人々も多く目にしました。社会全体の経済水準が日本よりも厳しいことは明らかでした。 しかし、そこで私が感じたのは人々の力強さや活気です。私を含めた日本社会に生活する人々に弱まっているようにみえる生命力のようなものです。そこで頭をもたげてきた疑問が「経済が豊かになるって何だろう?」ということです。 つまり、日本社会は経済的に豊かになったけれど、果たしてそれは何をもたらしたのだろうか、ということが気になり始めたのです。
 こんな経験がきっかけとなり、豊かさや消費社会について本格的に研究を始めることになりました。これまでに、東京、上海での大規模調査に関わり、 現在は、持続可能性を追求する環境先進都市として知られる、アメリカのポートランドで行う調査のプロジェクトにも参加しています。

石田:藤岡先生は主にアンケート調査で研究を進められていますが、社会学者にも現地で対象者を観察したり、インタビューしたりして調査研究を進める手法をとっている人もおられます。両者の融合や違い等についてお聞かせ頂けますか。

藤岡: 文献を読み解いて理論的な研究をすることも重要ですが、社会学は経験科学であるという側面を強く持っているので、アンケート調査やインタビュー調査を行ったり、あるいは様々な手記や手紙、記事、 映像などといったドキュメントを分析するなどして、調査を行うことも重要です。社会を理解するためには、まずそこで何が起こっているか、あるいは何が起こっていたかを知る必要がありますから。これは社会福祉学でも同じだと思います。
 通常、社会調査は、アンケート調査のように数字を使う量的調査といわれるものと、インタビューや対象者の観察のように、調査対象者により深く入りこんでいく質的調査に分けられます。おおざっぱにいえば、量的調査は社会現象を広く見ることを得意とし、 質的調査は深く見ることが得意です。どちらの調査手法をとるかは、社会現象のどういう側面を明らかにしたいかによるので、どちらの方が優れているといったことはありません。
 社会現象をより多角的に捉えようとするならば、両方の調査手法を併用することが望ましいですが、ひとりの研究者が使える時間や労力には限りがありますし、個人の資質や好みといったことが関係する場合もあります。 ですから、一部の非常に優れた研究者を除き、どちらかの手法に重きを置いて調査を行うことが多いです。私の場合は、量的調査に重きを置きつつ、雑誌記事の分析やインタビュー調査といった質的調査を部分的に組み込みながら研究を行ってきました。

石田: 藤岡先生は本学部若手・中堅教員の中で唯一、単著で本を出版されておられますね。2015年に出版した『消費社会の変容と健康志向―脱物質主義と曖昧さ耐性』について、簡単に内容を紹介して頂けますか。

藤岡: いま、ご紹介いただいた本は、2013年に提出した博士論文に若干の手直しをし、日本学術振興会・科研費の出版助成を受けて刊行したものです。
 ここで扱ったテーマのベースには、社会が経済的豊かさを達成すること、あるいは消費社会化することが人々を幸福にするかという問題があります。この問題を、健康志向という社会現象を中心に論じています。
 この議論の中で検証した重要な問題は、健康志向は他者性の消去という心的傾向と結びついているか、というものです。他者性とは、不確実性を伴っていたり、コントロールが困難なもののことを言います。
 量的調査のデータを分析して明らかになったのは、他者的なものに対して非許容的な者ほど健康不安が高いいっぽう、他者的なものに対して許容的な者ほど健康消費行動に積極的であるということです。つまり、 他者的なものに対して許容的か否かで、健康に対する意識、行動のあり方にねじれが生じているのです。このねじれは、消費社会化が進行することで、より大きくなっていくことが考えられ、 健康に関わるリスクをめぐって人々の間に見えない壁のようなものが生じていく可能性があります。つまり、消費社会化の進展がもたらす恩恵を享受できる人と、そうでない人の間に存在する差が開いていく可能性があるのです。

石田:私も単著で一冊書くことの大変さを知っているので、新進気鋭の先生には同じ神奈川県出身者の縁もありますからエールを送りたいと思います。最後に、藤岡先生の最近の研究成果を教えて頂けますか。

藤岡:先に挙げた本を除くと、最近では以下のような研究成果があります。

藤岡真之,2017,「食のリスクへの対応と消費社会の進展―東京と上海の比較」『社会福祉学研究』(弘前学院大学大学院社会福祉学研究科)5:11-28.

藤岡真之,2017,「健康意識・行動と他者的なものに対する意識の関連―20~60歳代を対象にした分析」健康と消費文化研究会(代表:藤岡真之)編『健康リスクに対する消費者の意識と行動についての実証研究―震災以降の東日本を中心に』 (科学研究費補助金研究成果報告書),5-16.

藤岡真之,2015,「社会性の高い消費者の特徴と今後―社会的消費者の意識・行動の年代別分析」間々田孝夫編『消費社会の新潮流―ソーシャルな視点 リスクへの対応』立教大学出版会,39-52.

石田: 引き続き頑張ってください。

藤岡: ありがとうございました。

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