HOME  > 学部・学科案内 > 社会福祉学部 > 教員の研究紹介リレー > 社会福祉学部専任教員の研究紹介 その9 北村 繁 先生

社会福祉学部専任教員の研究紹介 その9 北村 繁 先生

~地形と防災について~  

 社会福祉学部専任教員の研究紹介シリーズとして、第9弾は学部長インタビューでお届けします。
                             報告者 社会福祉学部長 石田 和男

石田: 北村先生は火山灰編年学がご専門と聞いておりますが、どのような学問なのか教えて頂けますか。

北村: 火山灰編年学は、火山灰の図鑑を作ることを目的として、火山灰層を一枚一枚調べていく学問です。図鑑の情報は、地形学や地質学、考古学などでも利用されます。 また、火山灰を調べるので、過去にどんな噴火があったかも、明らかにすることができます。

石田:では、実際にどこをフィールドとしてどのような研究をされているか教えて頂けますか。

北村: 私自身は、かなり長い間、中米(中央アメリカ)の火山の火山灰を調査してきました。1992年が最初ですから、考えてみれば、もう28年にもなります。最近は、 中米の中でもエルサルバドルが中心ですが、エルサルバドルの調査も、2001年からですので、ずいぶんと長くなりました。

石田: 私もフランス留学経験がありヨーロッパの国々を巡って歩きましたから、国外出張をして現地で学ぶことは楽しいこともあれば、苦労や大変なこともありますね。 エルサルバドル調査での思い出話やエピソードを少しお聞かせ頂けますか。

北村: エルサルバドルは、青森県と岩手県を足したくらいの面積しかない国ですが、火山がたくさんあるという意味では、東北地方と似ているかもしれません。 気候的には季節性熱帯と呼ばれる地域で、乾季は全然雨が降りませんが、雨季は毎日夕方~夜の時間帯に土砂降りみたいな雨が降ります。ただ、乾季だけでなく雨季も昼間は晴れていて、 日本より乾燥した感じなので、日本の夏みたいなじっとり感はありません。また、都市は比較的高地にある(首都で標高700mくらい)ので、夜に雨が降ると肌寒いくらいで、 クーラーがないと眠れないような夜はほとんどありません。最近はみんなスマホをもっていて、What'sapp(アメリカ版LINE)でやりとりしているので、私もそれに入りたいのですが、やり方がわからなくて困っています。

石田:ところで、今年6月3日に中米グアテマラのフエゴ火山が噴火したときに、北村先生はNHKから取材を受けて解説を務められましたね。フエゴ火山の噴火の特徴を教えてもらえますか。

北村: フエゴ火山はグアテマラ共和国の南部に位置する富士山みたいな円錐形の火山で、山頂の標高は3500mほどあります。16世紀以降噴火の記録があり、特に2002年以降は、ほぼ毎年、噴火が続いています。 火砕流や火山泥流といった危険な火山現象も頻発していました。幸いなことに、これまでは、当地の防災関係者の努力に加え、幸いにも火砕流や火山泥流の発生が局地的だったことで、大きな災害に発展しませんでしたが、 6月3日に発生した火砕流では400人を超える方が犠牲となる大災害になってしまいました。

石田:火山噴火で犠牲者を出した経験は日本においても1990~95年の雲仙普賢岳の噴火がありましたね。あの噴火と比較してフエゴ火山はどうなのでしょうか。

北村:今回フエゴ火山で発生した火砕流は、1991~1995年に長崎県の雲仙普賢岳で発生した火砕流と同じタイプのものです。奇しくも同じ日付ですが、1991年6月3日に雲仙で発生した火砕流では、43人の方が亡くなりました。 この時は、火災サージと呼ばれる火砕流の熱風部(温度は最高600度くらい)が、時速100㎞を超えるような爆風となって被災地域を破壊し、焼き尽くしたのですが、今回の火砕流災害では、 火砕流の本体部分ともいえる高温の土砂の流れが麓の村を埋め付くしました。土砂といっても数メートルに達するようなの岩も混じっています。速度ははっきりわかっていませんが、おそらく雲仙の時と同様、時速数十km~100㎞超、 発生から被災地に到達するまで10分くらいだった可能性があります。しかも、当時は曇っていて火山が見えず、住人が火砕流の発生を知ったのは、火砕流到達の直前だったかもしれません。温度は雲仙のものより低かったようで、 火災は発生しませんでした。しかし、木の表面が焦げたり、電線の被膜や自動車のプラスチック部分がとけたりしていることから、人間にとってはじゅうぶん高温だった可能性が高いです(百数十度~400℃くらい)。

石田: 日本は火山列島ですから噴火もあれば、普段は温泉入浴や地下水の恩恵をもらったりしているわけで、上手に付き合うしかないですよね。

北村:そうですね。北海道の有珠山は20世紀に4回噴火していますが、1910年の噴火の後に、噴火したところのそばで温泉が見つかったので、現在の洞爺湖温泉の街ができたのも、いわば噴火のおかげ、といわれたりしていますね。 日本を代表する富士山は、ユネスコの世界文化遺産に登録されていますが、「忍野八海」や「白糸の滝」など富士山麓の湧水に対する信仰が構成遺産として評価されています。これも、水量では琵琶湖に匹敵するといわれる富士山の豊富な地下水が 、麓から湧き出しているおかげと言えます。

石田:弘前市の身近な火山と言えば岩木山ですが、噴火の際のハザードマップが作られていますよね。普段あまり気にしないものですから。

北村:岩木山の場合は、2002年に青森県が作成したハザードマップがあります。周辺市町村に配布されたので、当時から弘前市にお住まいの方は、見たことがある方も多いかと思います。現在は、青森県や弘前市、国土交通省の国総研のウェブサイトからも見ることができます。

石田:火山もそうですが、このところの豪雨災害では山崩れや土石流被害も大きいものがあり、自分の住んでいる地域がどのような災害に見舞われやすいかを普段から知っておく必要がありますね。

北村:火山災害以外でも、自治体では、住民の防災意識を高め、実際の防災に活かせるよう、洪水ハザードマップや土砂災害ハザードマップといった、さまざまな防災マップを作って、配布したりインターネット配信したりしています。 大事なことは、防災マップを見た時に、地図をみるだけでなく、防災マップに一緒に書いてある説明を読んで、災害やそれを引き起こす自然現象とはどんなものかを理解することです。防災マップに図示されているのは、 過去の災害事例をもとに予想されるいくつかの想定事例(シナリオ)で、起こり得ることすべてではありません。そのため、そうした想定よりももっと大雨が降ったら、とか、その時の風向きがこちら向きでなかったら、とか、想定事例と違ったことが起こった場合を想像しておくと、 予想と違ったことが起こっても、適切に対応できる可能性が高くなります。また、避難所等は小学校区などをもとに指定されていることが多いですが、例えば、指定避難所が川向こうの場合、大雨や洪水などの時にも橋が渡れるのか、渡れなければ他に行ける避難所はあるのか、 それもなければ大雨が予想される時刻のどれくらい前に避難するか、など、いろいろな「もしも」について、防災マップを見て、具体的に考えておくことが大切かと思います。

石田:貴重なお話を頂きありがとうございました。最後に、北村先生の最近の研究成果を教えて頂けますか。

北村:2015~2017年の現地調査とその時採取した火山灰の分析をもとに、本年発行の弘前学院大学社会福祉学部研究紀要に以下の論文を書いております。 Wide-spread tephras as a time-marker and chronological framework of eruptive history in the Berlín-Pacayal volcanic area, eastern El Salvador, Central America. (中米・エルサルバドル東部ベルリン-パカヤル火山地域の噴火史の概略と時間指標としての広域火山灰)

石田:引き続き頑張ってください。

北村:ありがとうございます。今後とも、よろしくお願いします。

syokai9.jpg"

 


学部・学科案内
学部・学科案内
生涯学習を支援します。 各制度をご利用ください。